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2011.06.28 『歳月』
司馬遼太郎作品の長編『歳月』です。
新装版になって上下に分冊されていますが、
わたしが所持しているのは古いほうで
1冊700ページほどある分厚さです。

明治維新から司法卿として活躍した
江藤新平が主人公です。
時流に乗り、鳥羽伏見の頃に上京して
薩長土「肥」の地位まで、自藩を押し上げるなど
実務の才能があり、建設の才能がある
主人公ですが、政治には疎く
やがて追い込まれ、佐賀の乱の首魁となり
新政府に破れ去ってしまいます。

幕末維新の長編作品が多い作者です。
この『歳月』もそうですが面白い作品が多いし、
同時代ということもあって相互に関連してます。
『歳月』の大久保利通は非情な人物として
必要以上に江藤新平を貶める側面が
描かれています。

関連作品も一緒に読むといいのでしょうが
『翔ぶが如く』は全11巻など
相当長いので、根気が続くかどうかが問題ですよね。

この文春文庫の多田道太郎解説がよくて
かなり読書を助けてくれます。
解説から読むのがよいと思います。
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吉村昭作品の『長英逃亡』です。
タイトルの通り、幕末の医師で蘭学者の
高野長英が脱獄して幕府の眼を掻い潜りながら
諸国をめぐる6年余の足跡をたどります。

逃亡生活での人情の機微、猜疑のこころ
母、家族との再会などが
きめ細かく活写されており、
緊張感あふれる作品に仕上がっています。

語学の天才として名を馳せ、
その才能から居傲な人物だったのが
義侠心のある人々に支えられて
逃亡を続けるうちに、自分の非違に気づき
反省するようになるなど、
中年になってからですが、
人間的な成長を遂げていくのも読みどころです。

いくつになっても人間は進歩できるんだなと
かなり含蓄のある読書で
再読ですけれど、感動しました。
個人的には吉村昭作品で1位だと思っていますが
いかがでしょうか?
佐藤賢一作品の『カルチェ・ラタン』です。
この作品は、探偵小説や推理小説と言った方が
しっくりくるような内容となっております。

夜警隊長の「泣き虫ドニ」こと
ドニ・クルパンが語り手で
ドニ・クルパンの元家庭教師で
貴族出身の天才神学者、ミシェル・ドゥ・ラ・フルトが
主人公の位置を占めています。
次々と起きる事件の真相を追っていくなかで
ドニは成長していき、
ミシェルは師匠と対決することになります。

2人の軽妙なコント仕立てのやりとり
イグナチウスロヨラやフランシスコザビエル、
プロテスタントのカルヴァンといった
わたしたち日本人にも歴史の教科書などで
名前を見たことがあるメンツの登場など
面白く読めるようになっています。

フランス国民国家誕生前の
世俗領主やローマ教皇庁との関係、
作品の中で繰り広げられる神学問答などを
読み飛ばすことが出来れば、
楽しく読める娯楽作品に仕上がっていると思います。
佐藤賢一作品で直木賞受賞作の
『王妃の離婚』です。

弁護士フランソワが国王夫妻の離婚裁判に
関わることで過去の自分と向き合うというストーリー。

はじめは斜に構えていたフランソワが
一転だれも積極的に引き受けない
王妃側の弁護に立ち、
痛快に相手をやりこめていくところは
かなりの面白さです。

ちょっとラストのほうに難がないでもないという
印象もありますけれど
それを補ってあまりある
スリリングなストーリー展開です。

わたしが佐藤賢一作品にであった最初の作品。
プロローグでは裁判のさの字もでてきませんが
裁判となると一転
興奮のるつぼに巻き込まれたことを
鮮明に覚えています。

何かの解説だったかの文章で読んだと思いますが
塩野七生作品『チェーザレボルジアあるいは優雅なる冷酷』に
インスパイアされたようです。
ただし、塩野作品ではルイ12世の離婚問題について
ほんのわずか言及されているだけです。
作家の想像力や構成力にびっくりするエピソードです。
塩野七生作品の『ローマ人の物語』
文庫通巻29~31の『終わりの始まり』です。

皇帝マルクスアウレリウスアントニヌス、コモドゥス
なか2人挟んでセプティミウスセヴェルスと続く
ローマ帝国が落日に差し掛かる時代を追っていきます。

まずはアントニウスピウスの再評価からはじまり
五賢帝の一人とされるマルクスアウレリウスを
時代の流れを必死に見極めようともがく人物像にとらえなおす
という前半が見せ場だと思います。
それからは、「愚帝」の時代、内乱と続き
軍人皇帝時代に突入して
ローマ帝国が少しずつ国力を落としていく
凋落のはじまりを描き出していきます。

この作品はやはり面白くて
読みだすとなかなか止まりませんでした。
ただ五賢帝のところを読んだのは
半年近く前だったので、
もう少しスパンを短くしたほうが良かったかと
すこし後悔をしてました。

ローマはもともと多神教の文化です。
そこにキリスト教がくいこんでいくという流れもあります。
キリスト教をどうこう言うつもりはないのですが、
作者は当時の社会からみたキリスト教を
けっこうシビアにとらえていて
なるほどな、と感じさせられます。
2011.06.10 『堪忍箱』
宮部みゆき作品の短編集『堪忍箱』です。
感情の機微や人々の思いなどが
つまった8つの短編が収められてます。

『堪忍箱』
『かどわかし』
『敵持ち』
『十六夜髑髏』
『お墓の下まで』
『謀りごと』
『てんびんばかり』
『砂村新田』

個人的にはオムニバスっぽい作りで
人には言えない秘密をだれもが持っている
ということを描いた『お墓の下まで』や
母の初恋相手に声をかけられた『砂村新田』あたりが
非常に面白く読めました。

この短編集全体に粒よりばかりで
佳作が多いですし、
言葉のチョイスがナイスです。
例えば、「てんから信じない」「のっけから」など
おそらく江戸の人たちがよくつかっていただろう言葉が
作品を支えているように感じます。

なんだかすごく上から目線の感想ですが、
ご容赦のほどを。
2011.06.07 『扇野』
秀作がズラリと並ぶ短編集『扇野』です。
伊勢志摩にこの山本周五郎作品を前面に出した
旅館があり、そのために泊ったことがあります。
普通にきれいな旅館でした。

9つの短編が収録されてます。
『夫婦の朝』
『合歓木の陰』
『おれの女房』
『めおと蝶』
『つばくろ』
『扇野』
『三十ふり袖』
『滝口』
『超過勤務』
最後の『超過勤務』は現代ものです。

表題作の『扇野』は新潮解説のとおり、
とてもきれいな絵のような作品で
『虚空遍歴』が思い出されます。
はからずもキーになる女性の名もおんなじ「おけい」です。

また、『おれの女房』は戦前の『江戸の土圭師』が
発展したような作品で、設定以外はほぼ同じです。
さらに『足軽奉公』からの流れも感じさせます。

そんな中、個人的には『三十ふり袖』がお気に入りです。
やはりがんじがらめマンはハッピーエンドに弱いですね。
下町の人情味あふれる作品で、
主人公のひとり、巴屋の旦那である喜兵衛の
深い思いやりには、はからずも涙してしまいます。

他にも『つばくろ』や『めおと蝶』など粒ぞろいです。
山本周五郎短編集の『怒らぬ慶之助』。
19の作品が収められています。
そのうち、4作品が現代ものです。

『小さいミケル』『染血桜田門外』『如輪寺の嫁』
『茅寺由来』『黒襟飾組の魔手』『怒らぬ慶之助』
『長州陣夜話』『猫眼レンズ事件』
『翼ある復讐鬼』『縛られる権八』
『千代紙行燈』『武道絵手本』『紀伊快男子』
『雪崩』『間違い権五郎』『挟箱』『霜夜の火』
『女ごころ』『怒る新一郎』

なかには1ページ程度のものもあります。
新潮文庫のなかで新装版を除けば、
直近の文庫だと思います。

個人的には『茅寺由来』が面白く感じました。
宮本武蔵が幽霊と間違えて茅を刈ったという話ですが、
後年には似たようなテーマで傑作『よじょう』が
うまれるということになります。

このほか『怒る新一郎』は『武道用心記』と
ほぼ同じテーマ、筋立てで導入も同じ感じです。
そしてさらに『評釈堪忍記』に発展します。
『怒らぬ慶之助』もおなじで『矢一筋』に発展します。
そういう意味では、いろいろな習作があったうえで
ユーモアがただようこっけいものが形成されていったんですね。

面白さを追求するなら、新潮文庫で言う
巻の若い短編集を読むほうがいいでしょうね。
城山三郎作品の『秀吉と武吉』です。

タイトルの通りで、村上武吉が主人公となっています。
海賊として生きる武吉が
毛利家と戦ったり、共同したりしながら
戦国の世を生き抜いていきます。
そこに立ちはだかる大勢力の秀吉。

海賊である誇りを捨てて生きるのか
海賊の意地を貫くのか
大きなターニングポイントを迎える武吉。
どう決断するのか、というストーリーです。

非常に読み応えのある作品です。
毛利元就の客将として海からの援護を受け持つ中で
村上水軍の自立、自存を目指す武吉。
盟友の小早川隆景や情報通、安国寺恵瓊
村上水軍の来島通総兄弟などとの関係など
スラスラと読めました。

やはり、秀吉の天王山以後の豹変は
人間を読み解くうえで、かなり興味深いですね。
タイトルが変わりますが、続き物です。
上田秀人作品で黒田官兵衛を読みました。

『月の武将』では本能寺まで、
『鏡の武将』は後半生と物語が分かれています。
特に、『鏡の武将』では秀吉に対する不信とともに
自らに対する無力さや限界を感じるというつくりになっており、
縄田一男解説によると、
完成度の高い作品ということになります。

黒田官兵衛関連作品を追ってきましたが
天王山、賤ヶ岳、朝鮮戦役を
描いた作品がすくなかったうえに、
天下人と才能ある家臣の心の隙間が見事に
描かれているので、『鏡の武将』だけでも
諸作品の穴を埋めて余りある秀作だと思います。

わたしが贔屓にしている大谷刑部がコテンパンなのが
個人的にはちょっと気になりました。
官兵衛目線では、このように見えていたのかなと
冷たい秀才として捉えられてます。
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